step
かいだんため息をついて
マンションの非常階段を
俺は上っていた
仕事の帰り
上司や先輩に
ぐちぐち言われて
いつも
この階段を上るときは
気分が重い
胸元から
取り出した
白いタバコを
銜えて
安物のライターで火をつける
深々と
煙を吸って
吐き出したら
少しだけ
胸につかえていたイライラが
取れた気がした
まっすぐ部屋に戻っても
どうせ
すぐにベッドに倒れこむだけだ
職場と家を往復するだけの
単調な生活に嫌気が差していたのは
事実だった
また俺は
深くタバコを吸って
眼前をぼやかした
非常口階段の
階表示プレートが
5階になった
俺の部屋は
5階だから
眺めは決して悪くなかった
彼女と電話したりするときは
いつも
非常口階段に座って
タバコをプカプカすって
長電話をするものだ
他にも気分が優れない日
イライラする日は
非常階段に腰掛けて
生ぬるい夜風と
自分の感覚を
一体化させることに集中して
目を閉じていると
自然と
心地よいものだ
今夜はひどく気分が悪い
イライラしたまま
ベッドに入っても
良い結果にならないことは
目に見えてる
はぁー
煙を吐き出しながら
ため息をついたおれは
6階に差し掛かる
非常口階段の
一段目に腰を
二段目に背中を
三段目に頭を預けて
斜めに寝そべるように座った
非常口階段は
柵だけしかなく
外界とは非常に
オープンに接することが出来る場所だ
生ぬるい夜風が
左から右へ
下から上へ
変則的に
俺の体をなでていく
右側は
下へ続く階段で
左側は
5階というだけあっての
なかなかの絶景だ
低いビルが立ち並ぶ
俺の町を
一望できるくらい
眺めがいい
遠くに見える高級マンションの
部屋の明かりがついているのがわかると
「金持ちはいいよな」と
決まって卑屈を吐き出す
新しいタバコを取り出し
火をつけて
左側に広がる
夜光の洪水に
目を奪われて
さっきまでの
イライラは
飛んでいったようだ
豊かな気持ちになって
おれは顔を上に戻した
俺の目が
あるものと
眼が合った
目のくぼみが全て
真っ黒
なにもかもを
潰してしまうほどの
重力を持っているような
恐ろしく暗い、、暗い眼
表情の無い顔が
10cm位の距離で
俺を見据えていた
でもそれ以外の
顔のパーツは
フツウで
なんだかこっけいだった
まじまじと眺めると
別にどうってことない
ちょっと怖いだけだけれども
しかし
いきなり目の前に
現れたので
俺は声をあげた
わっ!!?
その声に
反応することも無く
その表情の無い顔は
ずっと俺を見据えている


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