Wednesday, August 23, 2006

Restaurant

「増谷くーん」

遠くのデスクから
上司の呼ぶ声が聞こえた

俺は
上司に聞こえるように
大きく短く「はい」と
返事をして
今校正中の文章を
いったん上書き保存して
上司の元へむかった

俺は
増谷幸治

出版社に勤務しているが
社内で仕事をすることは
今やっているような
校正くらいで

あとはもっぱら
自分の足で
いろいろと雑誌のネタを探して
取材専門記者だ

安月給の上に
若いからってコキ使われている
取材費なんか大して出ないから
結局は俺が自腹を切ったことなんて
数えられないくらいだ

「はい、お呼びですか」

おれは上司のデスクの前に立つと
軽く
ネクタイを締めなおして
姿勢を正した

「実はだな~山梨県のある山奥に
完全予約制でとても美味な料理を
出すレストランがあるらしいんだ」
上司は殴り書きされた
メモ用紙の切れ端を見ながら
話を続けた

「そこは知る人ぞ知るって店らしいんだ
だからどこの雑誌にも載ってないんだ
そこで、うちの雑誌がなんとか先手を打って
特集を組みたいんだよ!
『山奥に見つけた!玄人の味』
とかなんとか銘打ってさ!」

「、、はぁ」

俺は上司がネタを持ち込むなんて
久しぶりなんで
どこからつかんだ情報か聞きたかった

「ネタの発信源は?」
俺は殴り書きされたメモを
見ながらたずねた

「いわゆるクチコミだな、ネットでも
相当話題になっているぞ、ただ
肝心の電話番号や店の場所
店の名前、和洋中どの料理の
コースを出すのかさえ
わかっていないんだ」

上司はパサっと
他社のグルメ雑誌を
軽くパラパラっと捲って
デスクの上に投げた

「どの雑誌も誰もが知ってるような店しか
特集してねぇな
つーことで
よろしく、取材期間は
五日間だ、妙な領収書は
受理しないからな」

上司はそういうと
くるっと椅子の方向を変え
他社の
雑誌を読み始めた

「本当に仕事してんのかよ、、、」

俺は上司に聞こえないように
つぶやいた

それから
殴り書きされたメモをみて
ため息を吐いた

「探偵じゃないんだぜー
手がかりが少なすぎるだろ」

そう愚痴をこぼしながら
自分のデスクに戻って
パソコンの
スタンバイを解除して
校正中の画面に戻った
一旦それを閉じて
ネットで検索してみることにした

「とりあえず、山梨っと。。。」

キーボードをカタカタ鳴らして
検索ボックスに
山梨 レストランと打ち
エンターキーを
軽くタンッと叩いた


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