Sunday, August 20, 2006

for last

せみの鳴き声を聞きながら

書き下ろしましたー

どーぞー






「さて、そろそろか」
腕時計と
書斎のデジタル時計を見比べて
準備を終えた俺は
立ち上がった

「特に、、不自然ではないよな。。」
全身が映る細い鏡の前に立って
俺はつぶやいた

一回に下りると
もう一度
仏壇を見やったが
今度は合唱することなく
廊下からチラッと見るだけだった

彼女としっかり目を合わせるのは
今はつらい


この、約十年間
俺は
復讐だけを
生きがいに生きてきた

事故のレポートは
見ていないが
当時担当した警察官に
事故の翌々日に言われた

「ブレーキ痕は一切ありませんでした」

「飲酒反応が出ました」

「謝罪を要求しますか?」

「、、、、、?」

飲酒?
ブレーキ痕なし?

そのキーワードだけが
頭の中をぐるぐる回っていた

他に何を言われても
もうどうでもよかった

なんで仕事中に
酒を飲んでいるようなやつに
俺の最愛の人を奪われなければならない

ブレーキなしで
轢かれたということは
相当な恐怖を
彼女と死ぬ間際に感じたはずだ

判決では
執行猶予がついた

なぜ?
俺だけが
こんなにもたくさんのものを
奪われなければならない?

アイツは
これから
たくさんの景色を見て
楽しい想いも
つらい思いも
苦楽を共に過ごそうとしていたのに

俺はアイツのおかげで
がんばってこれたのに

ヤツは全てを奪った

残された子供は
父の俺ががんばっても
母のぬくもりは一生知らないままだろう

そんな
間接的な
被害をも考える度に

俺は毎夜一人で
彼女の前で泣き崩れた

彼女はなんていうのかな

こんな俺を
とめるのかな?

でも
どうしても許せないんだ


四方八方
手を尽くして
ヤツの新しい会社も
出勤時間も
妻子持ちかも
家の場所も
調べ上げた

ヤツは
今日は夜勤
あと一時間で
勤務終了となり
家へ戻るはずだ

俺は高鳴る興奮と
これから他人の
人生を終わらせるという初めての
感情に触れ
目は血走り
完全に暴走していた

今までためにためていた
感情が
決壊して
流れ出したように

玄関を出て
車に乗り込み
車内に冷房を聞かせるために
エンジンキーをまわした

ブルルン

人工化された風のにおいは
鼻につく

手は変わらず震えていた

これでいいのか

まだ葛藤している
しっかりしろおれ


「ねぇ、鍵かかってないよ?」

ん?

「あなた、鍵がかかってないよ?」

空耳だろうか
不安定な精神状態のせいなのか

アイツの声が
頭に響いた

その声で
一度車を降りて
玄関へ向かった

本当だ
鍵がかかってないや

ピンポーン

それとほぼ同時に
チャイムがなる

俺はそのとき家の外にいたので
後ろを振り向けば
すぐに来訪客が見える

俺は後ろを振り向いて
呆然とした

ヤツがきた


しばらくの間俺たちは
見つめ合っていた
いや
にらあっていたのか

先に口を開いたのは
ヤツだった

「本当に申し訳ありませんでした」

それは強い口調でもなく
早口でもなく
しっかりして耳に文章として
届く声だった

「この十年間お詫びの気持ちばかり考えていました
私のせいで、あなた様の最愛の人を殺してしまい
本当に申し訳ありませんでした」

ぽつりぽつりと
言葉を考えるように
彼は謝罪を続けた

頭を下げ続けているので
表情はいまだ把握できない

もし
顔を上げたときに
ニヤついているでもしたら
その場で
刺し違えても
こいつを

殺す

顔を上げた彼は
深刻でこの
罪を一生背負っていく
決心のついた目で
私を見据えた

「よくもまぁ、のこのこと、、」

俺は包丁を
車内においてきたことを思い出して
右手で
彼の胸倉をつかんで
引き寄せた

「本当に申し訳ありませんでした、、」

これ以上の
クオリティの高い言葉は
出ないかのように

彼は
それだけを
続けた

負い目のある目の表情を
浮かべたかと思えば
罪の一切を背負う決心の目

俺は
右手を離した

車内に戻って包丁でコイツを
刺し殺そう

それでおれも死のう

コイツを
家に上がらせて
背中から刺そう

そう
考えたときに
聞こえた


あなた
もうやめて

あなたの両手は
人を殺めるためにあるんじゃない

私たちの息子を
抱きしめるためにあるの

あなたの腕から
あの子達は
学ぶものがたくさんあるわ

お願い
あなたまでもが
あの子達の前から
姿を消さないで

はっきりと
聞こえた

あいつが
あいつが
俺を寸前で止めた

俺は玄関付近で
ぼーとしていたみたいだ

彼も
声をかけようか迷っている状態だった

俺は
ふと
力なく聞いた

「あんた、、、子供は?」

彼は一瞬地面に視線を落とし
バツの悪そうに
答えた

「はい、、男の子が一人。。」

俺は
哀愁や攻撃的な感情
自責の念など
相反する感情が織り交ざった
表情で
こいつの前でする
最初で最後の笑顔を浮かべた

「命日のために来たんだろ
当日またこい、線香の一本でもあげろ
謝る相手は俺じゃない、佳奈に謝れ」

俺はそういうとくるっと
車の方向へ体の向きを変えた

背中越しに男は
「、、はい、、、本当に
申し訳ありませんでした」
といい

深々と謝罪のために
頭を下げた

疲れきった
足取りで
帰っていった

俺は
冷房の効いている
車内で
タバコを銜えて
紫煙を吐いて

さっと助手席においてある
ボストンバッグを見やった

自然とこぼれる
泪の粒

今頃
泪か

暑い日差しを感じて
空を見上げた

今日も
入道雲がもくもくのぼってきている
いい青空だ

気持ちのいい日々を
みんな過ごしているんだろう

おれはフロントガラスから見える
その景色に向かって
つぶやいた



なぁ
これでよかったんだよな?


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