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エイプリルフールの一時間前「マスター!マルガリータです」
バーの中にいるマスターに言った
元気のいい声が響く
店内はサザンロックが流れる
ゆったりとした雰囲気
大人だけのバーというのが最も正しいだろう
子供や20歳そこそこの者が入っていい場所ではないのかも知れない
「レン!元気が良いのはかまわないが
雰囲気を壊すような声の張り上げ方はやめろよ」
マスターはニコニコ笑いながらレンに言った
オレはこの春高校を卒業した
やりたかったこともなにもなかった高校時代
終わってみれば
やりたいことだらけだった
友達と話もロクにせず
部活などで青春も謳歌しなかったし
抜け殻の三年間だった
ただ、唯一オレが学校に行く楽しみはあった
「・・・れん・・・」
「・・・・レン!」
ふっと考え事をしていた
なにを考えていたのかはわからない
「レン!お前もそろそろシェイカー振ってみるか?マルガリータならレシピわかるだろ」
マスターはバーの中に入れよと言うように目配せした
「はい!ありがとうございます」
一礼してマスターと並んでバーに立った
「レンはもうレシピ覚えたのか?」
カウンターで駄弁っていた常連が
レンに話しかける
「そろそろ桜も咲いたんだってよ」
常連が続ける
「らしいですね、おれんちからみえる桜も今満開ですよ
でも、見ごろはもってあと一週間ってとこじゃないですか?」
「そうなのか、ならはやく見にいかねぇと
一枚でも散り始めると一気に桜ってのは散っちまうからな」
常連は言い終えたあとグラスを傾けた
「お待たせしました、マルガリータです」
注文を受けたカウンターへそれを運んだ
「レン、お前休憩行け」
マスターは店内に人が少なく
一人で捌けるだろうと思ったのかそう言った
「じゃあ、オレの次マスター休憩で」
「あいよ」
休憩時になにか一つ自分の飲みたいものを作れるというルールが
このバーにはある
これがレンは意外に楽しみだった
「どうしようっかなぁー」
「レン、おめぇカクテルつくんじゃねぇぞ、仕事中だからな」
マスターは笑ってレンに話しかけた
「じゃあこれにします」
レンはレモンティーをグラスに注ぎ
休憩に向かった
「休憩は30分だぞ!」
マスターはレンの背中に言った
引っ込み思案な性格は中学から
引きずっていた
三年間恋焦がれていた女の子に
告白しないで卒業したことは
今でも悔やまれる
高校ではそうはなりたくないと思った
でも、結果そうなったかもしれない
卒業式の日に告白できなかった
ふ~っと息をついて
レンはレモンティーを一口口に含み
タバコに火をつけた
実はレモンティーは嫌いだ
時計を見た
3/31 23:03
あと少しで
高校という籍が外れる
4/1からはバーテンダー見習いと
名乗ることになる
結局告白できなかった
一目見たときに
オレはエリカにイカれた
言葉遣いを直すと
一目ぼれしたんだ
初めてだった
こんなにも
一人の人が胸の中に溢れていることが
これが恋なんだと
妙に納得していた
だけど
それはかなうことなく
エリカはオレの友達と
くっついた
あと少しで
エリカとオレは違う世界の住人になる
住む世界が違うんだ
そう思ったとたん
急に胸が苦しくなった
無言でダイヤルした
「・・・もしもし、レン?どうしたの?」
懐かしい声、久しぶりに聞く
「うぃっす、ちょっとね・・・」
急に胸が締め付けられた
「あのさ、いいたいことが会って」
「どしたの?急に?」
「オレは」
「エリカのことが」
「ずっと好きだった」
携帯を閉じた
なにを喋っていたのだろう
なにもわからない
ただ一ついえるのは
自分に始めて素直になれたんだ
レモンティーを一気に飲み干した
口の中は
甘酸っぱかった
「休憩上がりました!」
レンは涙のあとを隠すように
元気よくバーに戻った
「休憩入ったばっかじゃねぇか、どした?」
マスターが不思議そうに聞いた
「なんでもないんす!マスターオレの分まで
休憩どうぞ!」
店にはもう客は一人しか残ってなかった
「最後なに飲もうかな~?」
カウンターで腕組みをして考えている客に向かって
レンは一度下を向き笑顔でこういった
「ベリーニなんていかがですか?」
笑顔を浮かべて
客と話していたのに
なぜか手の震えは止まらなかった
空き瓶を外に出した
まだ外は肌寒い
真っ暗な空に
一枚の小さな桜の花びらが綺麗に舞った気がした
「そっか、桜も散ったのか・・・・」
そういって
オレは戻ることのできない
エリカとの時間を
桜の花びらに見ていた

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